2012年11月11日日曜日

理想日本創刊準備号


理想日本創刊準備号表紙



本書は、既に、上坂氏顕彰会史料出版部より、リプリントを上梓している。以下の文章は、その末尾に付されたものである。

理想日本(Riso nippon, Ideal Japan)創刊準備号解題
筆名を使用しているが、収録論文全て、嶋野三郎(島野三郎、Saburo Shimano)の訳述。原著者はイリン。亦、発行人は、菅波三郎(Saburo Suganami)。編集後記執筆、末松太平(Tahei Suematsu)。
満鉄調査部、露西亜思想史、北一輝(Ikki Kita)、青年将校運動、或るいは維新史を学ぶ者にとって、上記の人々が一堂に会するのは、驚きであろう。と同時に、斯様な学問を志す者の心性のみが、この出会いを理解出来るであろう。今は、余り多くを語るまい。いつの日か相見える時もあろう、遠くの人よ。
此の度の復刻に際しては、底本に、故末松太平氏所持本を使用した。本書は、以前、登戸のお宅に伺った折り、著者が賜ったものである。原本の体裁は、14.8×20.8cmの仮綴パンフレット装。表紙にはやや厚手の用紙を使用。亦、表紙の一部には、カラーも使われている。なお、小会には、嶋野三郎氏所持の書き込みを施した書冊も保存されている。
理想日本に関しては、「理想日本掲載記事目録」、「理想日本掲載原稿集成」、「成吉思汗の遺産とユーラシヤ学派」等の書冊を、既に刊行している。  

雑誌『理想日本』について
『理想日本』は、ニ・ニ六事件後、軍籍を離れた菅波三郎氏(陸士37期、事件当時、鹿児島第45連隊第1中隊長、陸軍大尉)が、同志の嶋野三郎氏(満鉄調査部)、末松太平氏(陸士39期、事件当時、青森第5連隊、陸軍大尉)の協力のもとに設立した日本文化宣揚会が刊行した綜合雑誌の名称である。
本誌の特徴は、主要執筆者に、嶋野三郎氏を得たことである。彼は、満鉄調査部に籍を置く著名なロシヤ研究者であり、亦、日本近代思想史の巨峰、北一輝氏の盟友でもあった。為に、北氏の思考と近似性を持ったロシヤユ-ラシヤ主義者の論稿が、嶋野氏によって多数翻訳され、『理想日本』に掲載された。(収録にあたっては、日本人筆名が使用された。その間の経緯については、合田學著『成吉思汗の遺産とユ-ラシヤ学派』が詳しい。)
日本文化宣揚会は、後に理想日本社と改め、雑誌『理想日本』以外にも、単行本『基督教研究』や『マルクス主義に対する批判』等の日本文化宣揚会叢書を数多く刊行した。
理想日本社、嶋野三郎氏、菅波三郎氏、末松太平氏に言及した著作としては、米重文樹著『精神の旅人、嶋野三郎』(ナウカ社『窓』連載中)、合田學著『成吉思汗の遺産とユ-ラシヤ学派』(学習院大学言語共同研究所紀要、第21号・1997) 等がある。    

筆名使用の経緯
『成吉思汗の遺産とユ-ラシヤ学派』の内より、以下の文を参考に掲げる。
1932年、ユ-ラシヤ学派によって、プラハで発表された「ユ-ラシヤ主義宣言」は、満鉄調査部の嶋野三郎氏によって翻訳され、諸般の事情から、原著者名を記すことなく、訳者名にて、笠木良明氏の主宰せる大亜細亜建設社発行の雑誌『大亜細亜』の昭和八年八月、九月号に掲載された。尚、掲載にあたっては、原題を「日満共福主義」と改めている。(本書は、嶋野三郎氏の著作及び訳述を収録した嶋野三郎著作集の一巻として、昭和63年、理想日本社より、30部のみ刊行された。)
上掲雑誌の刊行された昭和八年の初夏は、満州国建国、五・一五事件、国際連盟脱退等、我が国の政治が最も混沌としていた時である。多様な政治勢力が拮抗していた時代に、強力な主張をする(立場を明確にする)ことは、勇気もいり、波紋も大きかったに違いない。満州在住の亡命ロシヤ人の安全を考えれば、この訳稿にロシヤ人名を使うことは出来ない。しかし、当時の時局の収拾策として、この論文に画期的な価値を見い出していた嶋野氏は、敢えて自らの名前を使い掲載、一部軍部との対立を明確にさせて行く。結果は、ニ・ニ六事件後の弾圧へと繋がり、彼は民間人ではあるが、陸軍刑務所に六か月も収監され、後、二年に渡るフランス滞在を余儀なくされる。
これより後、自らの名前を政治的主張に使用することが憚られた嶋野氏は、多様な筆名を使用するが、彼の翻訳したユ-ラシヤ学派の論稿も、この後は、一部を除き、架空の日本人名にて刊行されることとなる。  


参考
日満共福主義 (ユーラシヤ主義宣言、若しくは、ユーラシア主義宣言)
中根錬二著 『ロシヤ史の地政治学的覚書 そのイデオロギー的背景について』

2011年11月3日木曜日

雑誌「理想日本(IDEAL JAPAN)」掲載原稿集成   発行者(菅波三郎、Saburo Suganami)の櫃底より甦った理想日本社の根本資料

上坂氏顕彰会史料出版部では、雑誌「理想日本(IDEAL JAPAN)」に掲載された原稿の永久保存の為、電子データ化を進めて来た。以下は、作業が終了し、書冊として公開されたもののリストである。
合掌。

ロシヤ人及びロシヤ国家(第二版)
唯物論研究(第二版)
三人の会話(第二版)
世界観としての唯物論
共産主義と我等の世界観(第二版)
信仰に就て(第二版)
民族に関する考察
民族主義に就て
永遠者への道
祖国及び祖国愛(第三版)
道義的理想と現実(第二版)
有神論と無神論
国家論(第二版)
権力論(第二版)
民主政治論
マルクス主義に対する批判(第二版)
基督教研究(第二版)
哲学概論
大東亜建設の基礎
宗教と科学
西欧文化の危機(第二版)
西欧文化論、自然と文化(第二版)
文化に関する考察、日本文化宣揚会設立趣意 他
疑惑の危機
国家と法律、科学と道徳 他
婦人解放の根本問題(第二版)
手帳の中から
神的日本と無神的欧米 他     


参考
以下の画像は、「民族主義に就て」の原稿冒頭である。
合掌。